岡山県美咲町へ。
2026年8月10日美咲町へ健志会で視察へいってまいりました。
美咲町は今スマートシュリンク【賢く収縮するまち】として全国から注目されている町です。
今回は人口減少社会における、複合的統廃合について、また地域自治について詳しくお伺いしてきました。
たくさんの学び、気づきがありました。
以下かなりの長文ですが、ご興味のある方はぜひご覧いただければと思います。

主な視察・研修テーマ
(1)学校統廃合と多機能複合施設の合意形成について
-1.1 義務教育学校の設置と住民合意形成について
-1.2 学校を地域コミュニティの拠点として位置付ける考え方
-1.3 人口減少を見据えた公共施設再編
-1.4 公共施設の利用実態を「実人数」で把握する
-1.5 住民に対し「残す場合の負担」も説明する
-1.6 施設建設費だけでなく「将来の解体費」まで考える
(2)小規模多機能自治による地域運営について
-2.1 小規模多機能自治による地域づくり
-2.2 住民自身によるアンケートと「地域未来計画」
-2.3 うまくいく地域の共通点
-2.4 「楽しくなければ人は集まらない」
-2.5 補助金に依存しない地域づくり
-2.6 ふるさと納税と地域自治の連携
(3)地域資源を活用した観光振興について
視察詳細
今回の行政視察では、美咲町が進める義務教育学校の整備、公共施設の再編、小規模多機能自治、観光振興等について説明を受けた。特に印象的であったのは、人口減少を単に食い止めることを政策目標とするのではなく、今後さらに人口が減少していくことを現実として受け止め、その中でも持続可能な行政サービスと地域社会を維持するため、公共施設、教育、地域自治等を総合的に再構築している点である。美咲町が掲げる「賢く収縮するまちづくり」は、人口減少時代における自治体経営を考えるうえで、大変参考になるものであった。
(1)学校統廃合と多機能複合施設の合意形成について



1.1 義務教育学校の設置と住民合意形成
美咲町では、児童生徒数の減少や既存校舎の老朽化等を背景として、小学校と中学校の教育を9年間一体的に行う義務教育学校の整備を進めている。学校再編を進めるにあたっては、単に行政が学校統合の方針を示し、住民に理解を求めるという方法ではなく、地域住民や保護者との対話に相当な時間を費やしていることが特徴である。
住民説明会についても複数会場で開催し、それ以外にも地域や保護者から要望があれば個別に説明を行うなど、丁寧な合意形成が図られていた。義務教育学校という制度自体が地域住民にとってなじみの薄いものであるため、「義務教育学校とは何か」というところから説明を重ねたとのことであった。
当然ながら、学校が地域からなくなることに対する反対意見や、学校の設置場所についての意見もあった。そのため、義務教育学校のメリットだけを一方的に説明するのではなく、9年間同じ施設で学ぶことによって生じる課題等についても含め、丁寧に説明する姿勢が取られていた。また、専門部会等を数多く開催し、学校の設置場所、校舎整備、教育内容等について長期間にわたり検討している。旭地域では、地域住民の側から将来の学校のあり方について議論が始まり、義務教育学校の整備が進められた。
このことから、学校再編において重要なのは、結論を急ぐことではなく、住民が課題を共有し、自分たちの地域の将来について考える過程そのものにあると感じた。
1.2 学校を地域コミュニティの拠点として位置付ける考え方
美咲町の義務教育学校は、単なる教育施設として整備されているわけではない。学校内には、地域住民が自由に利用できる交流スペースや、地域の会合・オンライン会議等にも活用できる場所を設けるなど、学校を地域コミュニティの拠点として位置付けている。
また、体育館についても地域住民が利用するなど、地域住民が日常的に学校へ足を運べる仕組みが設けられている。教育面でも、子どもたちが地域に出向いて地域の人々と交流し、地域の課題や地域住民の思いを学ぶ取り組みを進めている。一方で、地域住民にも学校へ来てもらうことにより、「子どもが地域へ出る」だけでなく、「地域が学校へ入る」という双方向の関係づくりを目指している点が特徴的であった。
さらに、学校再編前から小学校と中学校による合同運動会や合同行事等を実施し、統合後に突然一つの学校になるのではなく、統合前から子ども、保護者、地域住民の関係をつくっておく取組も行われていた。
学校と地域をつなぐためには、コミュニティ・スクールや地域コーディネーターの存在も非常に重要であり、制度だけではなく「人」が地域と学校の橋渡し役を担っていることが分かった。
1.3 人口減少を見据えた公共施設再編
今回の視察において、特に参考となったのが公共施設の再編に対する考え方である。美咲町では、老朽化した公共施設を個別に修繕・更新し続けるのではなく、同様の機能を持つ施設を整理し、一つの施設へ複合化・集約する取り組みを進めている。例えば、次のような機能である。
- 行政支所
- 公民館
- 図書館
- 保健機能
- 地域交流機能
- 直売所等
これまで別々の場所に設置されていた機能を一つの施設へ集約することで、不要となった施設を解体・処分している。学校再編によって使用されなくなった旧校舎についても、支所、公民館、図書館、シルバー人材センター等の機能をまとめるなど、既存施設を有効活用している事例が紹介された。重要なのは、「建物を残すこと」を目的にするのではなく、「地域に必要な機能を残すこと」を目的としている点である。
施設そのものがなくなっても、そこで行われていた必要な行政サービスや地域活動の機能は別の施設へ集約する。人口減少時代の公共施設再編を考えるうえで、非常に合理的な考え方であると感じた。
1.4 公共施設の利用実態を「実人数」で把握する
美咲町では、公共施設の再編について住民へ説明する際、施設ごとの情報を可能な限り明らかにしている。具体的には、次のような情報である。
- 維持管理費
- 建物の老朽化状況
- 延べ利用者数
- 実際に利用している人数
- 地域の将来人口
- 他施設との機能重複
これらを住民へ示したうえで議論を行っている。特に印象的であったのが、「延べ利用者数」と「実利用者数」を区別している点である。例えば、年間利用者数が3,000人とされている公共施設であっても、実際には150人程度の利用者が年間何度も繰り返し使用した結果、延べ3,000人となっている場合がある。
公共施設という言葉からは、「不特定多数の住民が広く利用している施設」という印象を持ちやすい。しかし実態を調べると、「特定少数の住民が繰り返し利用している施設」も存在する。公共施設の必要性を検証するうえでは、単純な年間利用者数ではなく、「何人の市民が実際に利用しているのか」という視点が重要である。これは今後の備前市における公共施設再編でも、非常に参考になる考え方である。
1.5 住民に対し「残す場合の負担」も説明する
施設再編について説明すると、当然ながら現在その施設を利用している住民を中心に反対意見が出る。美咲町では、そうした場合にも抽象的な財政難だけを理由にするのではなく、「この施設を維持するために財源を使えば、別の行政サービスに使える財源が減る」というトレードオフまで含めて説明している。例えば、次のような分野である。
- 高齢者福祉
- 障害者福祉
- 水道等の生活インフラ
- その他の行政サービス
これら住民生活に直接関係する分野へ充てられる財源が減る可能性についても伝えている。公共施設を「残す・壊す」という二者択一の議論にするのではなく、限られた財源を何に使うべきなのかという自治体経営全体の議論として住民へ説明している点は、非常に参考になった。また、こうした考え方を正式な説明会だけで伝えるのではなく、町長自身も地域の行事や住民との日常的な会話の中で繰り返し説明しているとのことであった。
住民理解を得るためには、一度の説明会だけでなく、日常的かつ継続的な情報共有が重要であることを改めて感じた。
1.6 施設建設費だけでなく「将来の解体費」まで考える
美咲町では、新しい公共施設を建設する場合にも、建物そのものへ過度な費用をかけない方針を取っている。庁舎をはじめとする施設にはシステム建築等を活用し、豪華な外観や高額な建築資材よりも、内部の使いやすさや必要な機能を重視している。特に興味深かったのは、現在の人口だけでなく、20年後、30年後の人口まで想定して建物を整備していることである。
人口がさらに減少すれば、現在必要とされている施設も将来は必要なくなる可能性がある。そのため、施設の耐用期間を必要以上に長く設定するのではなく、30年程度の利用も想定し、その時代の人口規模や生活様式に合わなくなれば、改めてその時代に必要な施設を整備するという発想である。さらに、将来施設が不要になった際の解体費用まで考慮し、再利用・解体しやすい構造を採用している。
公共施設整備を考える際には、「いくらで建てるか」だけでなく、「何年間使うのか」「維持管理にいくらかかるのか」「最後にいくらで解体できるのか」まで含めたライフサイクルコストの視点が必要であると感じた。
(2)小規模多機能自治による地域運営について



2.1 小規模多機能自治による地域づくり
美咲町では、これまでの町内会・自治会単位の活動だけでは、人口減少や高齢化によって地域運営を維持することが難しくなることから、「小規模多機能自治」の取組を進めている。町内には多数の自治会が存在するが、それらをより広い地域単位でまとめ、地域自身が地域の課題を考え、解決していく仕組みづくりを進めている。目指しているのは、「行政が何とかしてくれる」という地域から、「自分たちの地域は自分たちで考える」地域への転換である。
しかし、行政が組織の形や活動内容を一方的に決めることはしていない。地域住民が何度も話し合い、「自分たちの地域にはどのような課題があるのか」「将来どのような地域にしたいのか」を考えるところから始めている。
2.2 住民自身によるアンケートと「地域未来計画」
小規模多機能自治の形成過程で特徴的であったのが、地域住民自身によるアンケート調査である。行政ではなく、地域住民がアンケートの質問を考え、1世帯につき1枚ではなく、家族それぞれが回答する方式を採用している地域もあり、小学生、中学生、現役世代、高齢者など、多世代の意見を収集している。最高では94%という非常に高い回収率となっている。その結果を地域住民自身が分析し、地域版の総合計画ともいえる「地域未来計画」を策定する。こうした過程を経て、初めて小規模多機能自治組織として町が認定する仕組みとなっている。
組織形成までには2〜3年程度を要するケースもあるが、行政が期限を設けて急がせることはせず、住民自身が納得しながら進められる速度を尊重している。ここで重要なのは、「組織を作ること自体が目的ではなく、話し合いを続けることで地域住民の意識が変わること」にあると感じた。
2.3 うまくいく地域の共通点
地域自治の取組が進んでいる地域と、なかなか進まない地域には、一定の特徴があるとの説明もあった。特に取組が進んでいる地域では、次のような特徴が見られるとのことであった。
- 上の世代が次世代へ役割を渡している
- 40代、50代などの現役世代が活動している
- 女性が積極的に参加している
- 役割を無理に押し付けない
- 自分ができること、やりたいことに参加する
- 行政が活動内容を決めない
特に女性の参加・参画については、女性が元気に活動している地域ほど取組が進む傾向があるとの説明が印象的であった。一方、旧来の役職者や高齢者が強い影響力を持ち、次世代に役割や決定権が移らない地域では、活動が進みにくいという課題も紹介された。地域づくりにおいては、組織図や制度以上に、世代交代や参加しやすい雰囲気づくりが重要であると感じた。
2.4 「楽しくなければ人は集まらない」
地域活動を継続させるための考え方として、非常に印象に残った言葉が、「楽しくなければ人は集まってこない」というものであった。義務として地域活動をさせたり、行政から役割を押し付けたりすれば、活動そのものが負担となり、長続きしない。そのため、次のような柔軟な考え方を大切にしている。
- 自分たちで決める
- まずやってみる
- うまくいかなければやり直す
- 必要でなければやめる
- 無理強いしない
これは行政と地域との「協働」を考えるうえでも重要である。形式的に協議会や実行委員会を作るのではなく、地域住民が主体的に参加したいと思える仕組みを作る必要がある。
2.5 補助金に依存しない地域づくり
美咲町では、小規模多機能自治組織に対して行政から活用できる財源を用意しているものの、地域によっては、「今は必要ない」として補助金等を求めないケースも出てきているという。話し合いを重ねる過程で、「行政からお金をもらうことを前提にすると、そのお金に依存してしまう」という意識が地域側に生まれている。まず自分たちでできることは自分たちで行い、本当に必要な場合に行政支援を活用する。このような意識が形成されていることは、小規模多機能自治の大きな成果の一つであると感じた。
2.6 ふるさと納税と地域自治の連携
美咲町では、ふるさと納税の使途として地域自治組織を選択することができる仕組みも導入されている。特定の地域組織を指定して寄付した場合、寄付額の一部がその地域組織へ交付され、地域自身が使途を考える仕組みとなっている。例えば1万円の寄付であれば、その4分の1にあたる2,500円が地域へ還元されるとの説明があった。
さらに、行政が使途を細かく指定するのではなく、地域側の裁量を大きくしている。行政から一方的に補助金を配るのではなく、地域自身が活動を発信し、地域外から応援される仕組みをつくることは、今後の地域自治を考えるうえでも興味深い取組であった。将来的には、地域自身が収益を得る「稼ぐ地域」へ発展させたいとの考えも示されていた。
(3) 地域資源を活用した観光振興
観光振興では、美咲町の代表的な地域ブランドである「卵かけご飯」の取組について説明を受けた。卵かけご飯という全国的に親しみのある食文化を軸として、次のような地域資源を組み合わせている。
- 町内の養鶏場で生産される卵
- 棚田で生産される米
- 地元の醤油
- 味噌や漬物
- 地元の器
- 地域の歴史や人物の物語
これらを組み合わせることで、単なる飲食商品ではなく、地域全体のストーリーとしてブランド化している。行政は情報発信や環境整備、指定管理者は商品開発やサービス向上、生産者は品質維持、地域事業者は地域産品の提供など、それぞれが役割を分担している。こうした積み重ねによって、美咲町は「卵かけご飯の聖地」として認知されるようになったとのことであった。一方で、卵かけご飯を目的として訪れた観光客を町内の他の観光地や直売所等へ十分に周遊させることについては、まだ課題があるとの説明もあった。
今後は観光地や直売所をつなぐモデルコースの設定、各地域のイベントとの連携等によって、滞在時間や観光消費額を高めていくことを検討しているとのことであった。この点は、日生の牡蠣、備前焼、旧閑谷学校等、それぞれ強い観光資源を持ちながら、それらを十分に周遊につなげられていない備前市にとっても共通する課題である。
まとめ
今回の美咲町視察で最も強く感じたのは、人口減少を単なる危機として捉えるのではなく、「人口が減少しても持続できる自治体へ構造そのものを変えていく」という明確な考え方である。
公共施設を減らすことも、学校を統合することも、行政の役割の一部を地域へ移すことも、それぞれ単独の施策ではない。人口減少によって税収や職員数、地域の担い手が減ることを前提として、
- 必要な行政サービスを守る
- 不要な固定費を減らす
- 公共施設を適正規模にする
- 地域住民が自ら地域を運営する
- 次世代の担い手を育てる
という一つの自治体経営戦略として取り組まれている。また、住民から反対意見が出ることを避けるのではなく、財政状況や利用状況、将来人口等を率直に示し、何度でも説明する姿勢も印象的であった。行政にとって耳の痛い情報も、住民にとって受け入れ難い情報も隠さず共有する。その積み重ねによって、当初は公共施設の廃止に反対していた地域でも、「古い施設を整理して、新しい複合施設へ集約する」という考え方が徐々に地域へ浸透してきたとのことであった。